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乳癌

乳癌とはどんな病気でしょうか?

わが国において、乳癌は罹患数・死亡数ともに年々増加しています。厚生労働省の発表では、死亡者数は2002年で1万人弱、罹患数は10年生存率が年々増加していて 80%程度とすると、 45万人と推定されます。罹患者数は、 専門家の計算では、すぐに胃癌を抜き大腸癌に続いて2位になることが推定されています。欧米では多くの国で乳癌が1位になっており、わが国でも時間の問題と考えられているのです。乳癌の発症は、年齢的に40代後半にピークがあり、報告によっては60代前半に第二のピークが認められます。
乳癌の症状は、基本的に乳腺症の症状とあまり変わりません。すなわち、 しこりや乳頭 分泌物、時として痛みなどです。癌は痛くないなどと根拠のない話が時々聞かれます が、痛みで発見される乳癌を専門医たちは多く経験しています。

乳癌の病期分類とはどういうものでしょう?

乳癌は進行程度に応じて、多様な症状が出てきます。皮膚に赤みが出たり、ひきつれてえくぼのように引っ込んだりすることもあります。わきの下のリンバ節が腫れると、腕がむくんでしまうこともあります。痛みが出たり、骨折したりすることもありま す。 その他、肺転移で咳がでたり、脳転移で痙攣が生じたりします。 ただ、 転移があっても全く無症状のこともあります。
乳癌の検査は、視触診、マンモグラフィー 、超音波に加え広がりや転移の有無を見るために、肺や肝臓のCTを撮ったり、骨シンチという放射線の検査を行います。これらの結果をもとに、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、腫瘍の浸潤の程度に応じ、乳癌の病期を以下のように7つに分類します.

  • 病期0 きわめて早期の癌で腺管または小葉にとどまっており腫瘍を認めないもの。
  • 病期I  大きさが2cm以下のもので腋下リンバ節には転移していないもの。
  • 病期ⅡA  大きさが2cm以下で腋下リンパ節への転移が疑われるもの、または2cm~5cmの腫瘍でリンバ節転移がないもの。
  • 病期ⅡB  大きさが2cm~5cmの腫瘍で、かつ、腋下リンバ節に転移があるか、 または5cm以上でリンパ節転移がないもの。
  • 病期ⅢA  大きさが5cm以下の腫瘍で腋下リンバ節の転移があり、 リンパ節の周囲組織やリンパ節相互間の固定があるか、転移の有無にかかわらず5cmよりも大きいもの。
  • 病期ⅢB しこりの大きさを問わず、しこりが胸筋や肋骨に固定しているか、皮膚に顔を出しているか、浮腫や腫瘍を作っているもの。あるいは、鎖骨の上または下のリンパ節に転移があるか、同側の上腕に浮腫があるもの。
  • 病期Ⅳ 骨、肺、肝臓 脳などに転移しているもの、 あるいは乳房の範囲をこえて皮膚浸潤があるもの。
    このような病期によって、手術を含め、大まかな治療方法が決まっています。 もちろん、個々人の状況によってその人に合った治療方針があります。担当医とよく相談されて決めるのがいいでしょう。

乳癌の治療法にはどのようなものがあるのでしょうか?

乳癌といえば、肋骨が浮いて見えるほど大きく胸を取ってしまうというのはずっと昔のお話です。もちろん、進行度、できてしまった部位によって、治療の仕方は少しずつ違っていますが、最近はいろいろな治療法を選択できるようになって来ました。

A.外科的治療
乳癌の治療は基本的に手術による外科的治療となります。ただ、進行の度合いによって切除する範囲も異なってきます。一般に、早期の乳癌ほど切除範囲は狭くなる傾向にあります。

乳癌の手術は、大きく次の3つに分類されます。
  1. 「乳房温存手術」
  2. 「胸筋温存手術(非定型乳房切除術)」
  3. 「定型乳房切除術」

原則的には、「乳房温存手術」は主に早期の乳癌に行われ、手術後に放射線照射を行います。「胸筋温存手術(非定型乳房切除術)」、「定型乳房切除術」の後には、腋下リンパ節転移の著明なものに限って放射線照射を行うことがあります。
「温存手術」に関しては、わが国が初めて温存手術に踏み切った1980年代とは大いに様変わりしてきています。従来、温存手術の対象とされてこなかった乳頭に近い腫瘍や大きめの腫瘍に対しても、患者さんとのお話によっては温存手術が選択されるケースが増えてきています。

  1. 乳房温存手術
    腫瘍の取り方にはいくつかの方法がありますが、基本的にはマージンをつけて腫瘍を切除し、腋下リンパ節郭清の後に、残存乳房に対して放射線照射を加えます。
    ●1999年の乳房温存ガイドラインは以下のとおりです。
    1)腫瘍の大きさが3cm以下
    2)各種の画像診断で広範な乳管進展を示す所見
    (マンモグラフィーで広範な悪性石灰化を認めるものなど)がないもの。
    3)多発病巣のないもの
    4)放射線照射が可能なもの(重篤な膠原病の合併や同側胸部放射線既往照射のあるものは適応外。また、患者様が照射を希望しなければ、適応外。)
    5) 患者様が乳房温存療法を希望すること。ただし腫瘍の大きさが3cm以上でも、患者様が本療法を強く希望される場合は、術前、術後の治療を十分検討し実施することが望ましい。
  2. 胸筋温存乳房切除術(非定型乳房切除術)
    大胸筋、小胸筋を温存し、患側の乳房を全部切除します。腋の下のリンパ節を十分に郭清します。乳房はなくなりますが、筋肉を残している分少なくとも肋骨は見えず、後述する定型手術ほど整容性は悪くなりません。
  3. 定型乳房切除術
    定型乳房切除術は、大胸筋、小胸筋、患側の乳房、腋の下のリンパ節を全部切除します。現在、選択されるケースは少なくなりましたが、リンパ節転移や胸筋への浸潤が著しい場合に実施されることがあります。
    かつて、乳癌の手術というと定型乳房切除術が一般的でした。定型という枕詞が示すとおり、これが標準術式とされていた時代があったわけです。当時、手術後の患者様は、 皮膚のすぐ下に肋骨が浮いて見え、痛々しい姿でした。
    その後、大胸筋や小胸筋を残しても同じように、きちんとリンパ節が取れる術式が考案され予後を調査してもあまり変わらないことが判明し、胸筋温存乳房切除術が梱準術式となりました。乳房を失うという状況に変わりはなくても、肋骨が見えるのと見えないのでは、整容性だけでなく、精神的苦痛もずいぷん変わってきます。
    最近は、乳房温存手術あるいは乳房温存療法という言葉も、ずいぶん広がってきているようです。ただ、乳房温存も乳房に全く傷をつけることなく手術するのは不可能であり、傷はやはり残りますし、術後の放射線治療も必要になってきます。適用範囲はどんどん広がってきてはいますが、やはり、進行度や大きさによっては不可能なこともあり、ご自身の背景を十分に考えて、自分に合った最適な方法を担当医とともに考えるべきです。自分の病気と向き合い、プライオリティーを考えて初めて温存治療が可能になります。

B.術後補助療法

  1. 放射線療法
    放射線療法は、乳房温存療法が乳房を温存するために腫瘍を小さめに切除することから、手術の及ばなかった範囲に照射するものです。原則的には乳房に限局した照射を行い、腋下リンバ節への照射は行いません。乳房温存術式以外の手術後は、手術の及ばない鎖骨上リンパ節への照射が原則です。
    放射線によって免疫能が低下するのではと心配される方がいらっしゃいますが、放射線治療は局所治療であるため、全身の免疫能が低下することはないと考えてよいでしょう。
  2. 化学療法
    化学療法は、いわゆる抗癌剤による治療です。 内服によるものと点滴による方法があります。使用する抗癌剤は、進行度、 年齢、健康状態を総合的に判断して決定されます。 ほとんどの抗癌剤は、癌細胞も死滅させるだけでなく、骨髄や消化管粘膜、毛根細胞などの正常な細胞にも影響を与えるので、副作用として白血球、血小板の数の低下、吐き気食欲不振、下痢、脱毛などの副作用が出ることがありますが、他の癌で使われる抗癌剤に比べれば副作用は少なく、一部の抗癌剤を除けば、外来で施行することもできます。
  3. ホルモン療法
    現在乳癌の治療に使われているホルモン療法には、大きくわけて4種類あります。
    1) 抗エストロゲン剤
    2) LH-RHアゴニスト
    3) アロマターゼ阻害剤
    4) MPA
    抗エストロゲン剤は、乳癌の細胞内に存在するエストロゲンの受容体(エストロゲンがくつついて初めて作用を生ずるもの)とエストロゲンの結合を、エストロゲンと競合して阻害し働かなくする薬です。
    LH-RHアゴニストは、脳下垂体に作用して卵巣からのエストロゲンの生成を抑制するものです。
    アロマターゼ阻害薬は、卵巣以外から生成されるエストロゲンを低下させる薬です。 MPAはやや複雑な経路をとるとされていますが、いずれにせよ、エストロゲンを何らかの形で押さえ込もうとする薬といえます。
    これらは、ホルモンと密接に結びついた乳癌特有の治療法ですので、閉経前か閉経後か で適切な薬剤が選択されます。 なかには、子宮内膜癌の発症のリスクをあげるといわれている薬剤もあり、やはり少なくとも年1回の婦人科検診は必要となります。
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